「血圧、出てますね」
モニターを見て、そう確認して離床に入る。よくある光景です。でも、その血圧は本当に「組織に酸素が届いている」ことを保証してくれているでしょうか。
結論から言います。血圧があることと、灌流が保たれていることは、イコールではありません。
この記事では、血圧という数字が何を表しているのか、そして数字の裏で何を見ればいいのかを、集中治療室で18年働いてきた立場から話していきます。灌流という考え方そのものについては、こちらで先に整理しています。

血圧は「結果」であって、灌流そのものではない
血圧とは、心臓から送り出された血液が動脈の壁を押す力のことです。ここまでは誰でも知っています。
大事なのは、その数字が2つの要素の掛け算で決まっているということです。
MAP(平均動脈圧)= CO(心拍出量)× SVR(末梢血管抵抗)
つまり同じ「MAP 70」でも、中身がまるで違うことがあり得ます。
- 心拍出量がしっかりあって、血管も適度に開いている → 血液は末梢まで流れている
- 心拍出量は落ちているが、血管が強く締まって数字を保っている → 末梢に届いていない
後者は、水道でいえば元栓が絞られているのに、蛇口の手前だけ圧が高い状態です。圧力計は正常を指しているのに、必要な場所に水は出ていません。
だから「その血圧は、何によって作られているのか?」と一度立ち止まる。ここが出発点なんです。
MAPを重視する理由
収縮期血圧よりも、私は平均動脈圧(MAP)を見ています。
MAP ≒(収縮期血圧 + 2 × 拡張期血圧)÷ 3
心周期の中で拡張期のほうが長いため、こういう重みづけになります。そしてこのMAPが、臓器への灌流圧ともっとも関係が深い指標です。
一般にMAP 65mmHg前後が下限の目安とされるのは、腎臓・脳・心筋といった臓器が、一定以上の圧がないと血流を保てないからです。
ただし、MAPが基準を超えていれば安心、という話ではありません。ここからが本題です。
私がベッドサイドで実際に見ているもの
血圧は、もちろん重要です。特にMAPは外せません。そのうえで、モニターに映らない情報を必ず取りに行きます。
冷感と、湿潤
末梢の冷たさは、よく言われる所見です。私はそれに加えて、湿潤(冷汗)が出ていないかを常に確認しています。
見るのは末梢だけではありません。
- 額
- 体幹
- 四肢
この3か所です。触らなければわからないし、数値としてカルテに残ることもありません。見ようと思わなければ、一生見えない情報なんです。
モニターに出ない所見を拾えるかどうか。ここは、ベッドサイドに立つ人間にしかできない仕事だと思っています。
そして、呼吸
介入中にリアルタイムで追いかけているのは、呼吸様式と呼吸数の変化です。
努力呼吸が出てきた。呼吸数が上がってきた。この2つは、循環が追いついていないことを教えてくれる早いサインです。血圧の数字が動くより先に、呼吸が答えを出すことは珍しくありません。


尿量は「量」ではなく「バランスの向き」で読む
ここが、この記事で一番伝えたい部分です。
尿量というと「0.5 mL/kg/h を下回ったら注意」という基準がまず出てきます。それはその通りなのですが、臨床で私が見ているのは推移の向きです。
尿量が減っているとき、何を想像するか
尿量が減ってきたら、私はまずうっ血傾向になっていないかを考えます。
体に水が溜まる方向に傾けば、肺は水浸しになりやすい。肺水腫傾向になれば酸素化が落ちる。酸素化が落ちれば、呼吸様式や呼吸数に変化が出てくる。
つまり、尿量の減少は、数時間後の呼吸の変化を予告していることがあるんです。
尿量を「腎臓の話」で終わらせないでください。呼吸につながっている話なんです。
術後、私が離床のゴーサインにしていること
周術期管理では、こういう経過をよく見ます。
手術翌日、尿量はまだ十分に出ていません。血圧が保てず輸液を負荷するので、入る量が出る量を上回る。いわゆるプラスバランスで、体重も増えていきます。この時期に無理をしても、いいことはありません。
私が待っているのは、ここが反転する瞬間です。
時間あたりの尿量(mL/h)が、体重(kg)の数字を余裕を持って超えてくる。入れるより出るほうが多くなり、アウトバランスに転じる。ここを確認できたら、離床を積極的に進める判断材料の一つにします。
体が「もう水はいらない」と言い始めたサインです。ここを待てるかどうかで、その後の進み方が変わります。
逆に、出すぎているときは
尿量が多いから安心、でもありません。
尿が出すぎていて血圧が下がってきているなら、脱水に傾いていないかを疑います。そのときに一緒に確認するのが、クレアチニンと尿素窒素(BUN)の上昇です。
数字が上がってきているなら、腎臓に十分な血液が届いていない可能性がある。尿は出ているのに灌流は足りない、という状況があり得るということですね。
離床中にぼんやりしてきたら
離床を進めている最中に、患者さんの反応が鈍くなってくることがあります。
このとき私が最初に疑うのは、脳血流の低下です。せん妄ではありません。
理由は2つあります。
ひとつは、疲労なら言葉に出るからです。「疲れた」「しんどい」と表出されることが多く、意識レベルの低下とは結びつきにくい印象があります。
もうひとつは、せん妄はむしろ離床で改善する方向に働くからです。早期離床がせん妄の予防・改善につながることは、複数の研究をまとめた解析でも示されています1)。動かしている最中に悪化するのは、話の筋が通りません。
血圧が下がって脳への血流が落ちた。そう考えるのが自然です。そして、この場合の判断は迷いません。
臥床して、その日の離床は終了。ここは引っ張らないようにしています。
正直に言うと、まだできていないこと
ここまで偉そうに書いてきましたが、課題も書いておきます。
その人の「普段の血圧」を判断に組み込めていません。
もともと高血圧の方であれば、MAP 65は本人にとって十分ではない可能性があります。普段140台で過ごしてきた腎臓と、110台で過ごしてきた腎臓とでは、同じ圧に対する反応が違って当然です。
学会でも、血圧が高値の方にはそうした配慮が要るという話は耳にします。ただ、日々の臨床でそこまで細かく見られているかというと、正直まだです。
18年やっていても、できていないことはあります。ここは次の課題だと思っています。
ICUと一般病棟で、この話の通じ方は違います
ひとつ、現場感として付け加えておきます。
ICUで「血圧は出てるんですけどね」とだけ言われることは、ほとんどありません。ICUの看護師は、循環が保てているか、インアウトのバランスはどうか、心電図に変化はないかまで細かく追っています。だから会話が最初から一段深いところで始まります。
一方で一般病棟では、「血圧は保ててるんですけど、何かおかしいんですよね」という相談を受けることがあります。
この「何かおかしい」は、軽く扱ってはいけない情報です。数字に出る前の変化を、そばにいる人が感じ取っている可能性がある。そこで確認しにいくべきものが、この記事に書いてきたことです。
まとめ|数字の裏側を見る
- 血圧はCOとSVRの掛け算の結果。同じMAPでも中身が違う
- 冷感と湿潤は額・体幹・四肢で見る。触らないとわからない
- 呼吸様式と呼吸数がリアルタイムの答え
- 尿量は量ではなくバランスの向きで読む。アウトバランスへの反転が一つの合図
- 離床中のぼんやりは、まず脳血流を疑う
血圧はスタート地点です。ゴールは「届いているかどうか」の確認にあります。
数字は嘘をつきませんが、全部は教えてくれません。残りは、ベッドサイドで拾いにいくしかないんです。
次回は、その血圧を作っている心拍出量そのものを掘り下げます。前負荷・後負荷・収縮性・心拍数という4つの因子と、意外と語られない静脈還流の話です。
引用文献
1)Zhang L, Hu W, Cai Z, et al. Early mobilization of critically ill patients in the intensive care unit: a systematic review and meta-analysis. PLoS One. 2019;14(10):e0223185. doi:10.1371/journal.pone.0223185

