集中治療室でリハビリテーションを行うとき、私はまず意識・疼痛・呼吸・循環の4つを押さえるところから始めます。どれか一つが崩れていれば、その日の介入は組み立てられません。
この記事で扱うのは、そのうちの循環です。
「循環を見る」と言われて、まず血圧を思い浮かべる方は多いと思います。それは間違いではありません。ただ、血圧があることと、灌流が保たれていることは、イコールではないんです。
だから循環の評価は、血圧だけでは足りません。今回は「循環で何を見るのか」を、その理由と一緒に整理していきます。
基準表を眺めるだけだと、ここが抜け落ちるんですよね。数字は揃っているのに、なぜか進められない日がある。その理由の話でもあります。
循環で見るべき5つの視点
先に全体像を示しておきます。循環を評価するとき、私が見ているのはこの5つです。
- 血圧:とくに平均動脈圧(MAP)
- 末梢:冷感と湿潤(冷汗)
- 呼吸:呼吸様式と呼吸数の変化
- 尿量:絶対値よりも推移の向き
- 意識:介入前と比べた反応の変化
血圧以外の4つは、いずれも「血液が届いた先で起きていること」です。皮膚に届いているか、腎臓に届いているか、脳に届いているか。血圧が入口の圧だとすれば、こちらは出口の話ですね。
なぜ入口だけでは足りないのか。そこから話していきます。
なお、灌流という考え方そのものについては、こちらで先に整理しています。


この記事では、生理学的なメカニズムやガイドラインに記載されている内容と、私自身の臨床経験に基づく解釈を分けて記載しています。後者は「私見」と見出しをつけた枠で囲んでいます。枠内の内容は研究として検証されたものではなく、エビデンスとしての確実性は高くありません。一つの考え方として読んでください。
視点1:血圧|「結果」であって、灌流そのものではない
血圧とは、心臓から送り出された血液が動脈の壁を押す力のことです。ここまでは誰でも知っています。
大事なのは、その数字が2つの要素の掛け算で決まっているということです。
MAP(平均動脈圧)= CO(心拍出量)× SVR(末梢血管抵抗)
つまり同じ「MAP 70」でも、中身がまるで違うことがあり得ます。
- 心拍出量がしっかりあって、血管も適度に開いている → 血液は末梢まで流れている
- 心拍出量は落ちているが、血管が強く締まって数字を保っている → 末梢に届いていない
後者は、水道でいえば元栓が絞られているのに、蛇口の手前だけ圧が高い状態です。圧力計は正常を指しているのに、必要な場所に水は出ていません。
そしてこの状態では、末梢の血流が減ることで皮膚温が下がり、腎血流が減ることで尿量が低下します。血圧の数字とは別のところに、変化が現れるということです。
これが「血圧だけでは足りない」の中身であり、残り4つの視点が必要な理由でもあります。
だから「その血圧は、何によって作られているのか?」と一度立ち止まる。ここが出発点なんです。
なぜMAPなのか
血圧の中でも、臓器への灌流圧ともっとも関係が深いとされるのが平均動脈圧(MAP)です。
MAP ≒(収縮期血圧 + 2 × 拡張期血圧)÷ 3
心周期の中で拡張期のほうが長いため、こういう重みづけになります。収縮期血圧が「瞬間の最大値」であるのに対し、MAPは心周期全体を通じた平均の圧を表しています。臓器が受け取っている圧に近いのは後者、というわけですね。
ガイドラインが示している範囲
重症患者リハビリテーション診療ガイドライン2023(J-ReCIP 2023)1)では、離床と運動療法の基準案として血圧が挙げられています。
- 開始基準案:MAP 60 mmHg以上かつ100 mmHg以下/収縮期血圧 90 mmHg以上かつ180 mmHg以下
- 中止基準案:MAP 60 mmHg未満または100 mmHg超/収縮期血圧 90 mmHg未満または180 mmHg超
ここで見落とされがちなのが、上限も設定されていることです。低ければ届かない、というだけの話ではないんですね。
そしてもう一つ大事な点があります。ガイドラインはこれを「基準案」として提示していて、本文には科学的根拠に基づき統一された基準は得られていないこと、各施設の体制や患者の疾患に応じて修正して使用することが望まれる、と明記されています1)。
中止基準の備考欄には、こうも書かれています。
- 一過性の場合を除く
- 基準値より逸脱して離床を開始している場合には、医師を含めチームで中止基準を設定する
- 中止基準に該当しない場合でも、著しい血圧低下や上昇があれば一時的に中止し、医師に相談する
ガイドラインのほうから「数字だけで決めないでください」と言われているわけです。ここ、読み飛ばしてはいけません。
視点2:末梢|冷感と湿潤
ここからが、モニターに映らない情報です。
末梢の冷感は、灌流不全のサインとして知られています。皮膚への血流が減れば、皮膚温や色調が変わるからです。
そして冷汗(湿潤)も、J-ReCIP 2023の中止基準案に「発汗(多汗)、冷汗」として挙げられています1)。基準に載っている項目でありながら、触らなければ確認できないという点で、少し特殊な位置にあります。
私は湿潤を、末梢だけでなく次の3か所で確認するようにしています。
- 額
- 体幹
- 四肢
これは私の習慣であって、この3か所を見るべきだという根拠が示されているわけではありません。ただ、数値としてカルテに残る情報ではないので、見ようと思わなければ拾えないとは思っています。
視点3:呼吸|循環の変化が先に現れる場所
呼吸は呼吸器の話、と切り分けたくなりますが、循環の評価としても外せません。
J-ReCIP 2023の中止基準案には、呼吸に関する項目が複数挙げられています1)。
- 呼吸数が5回/分未満、または40回/分を超える
- 突然の吸気あるいは呼気努力の亢進(胸鎖乳突筋などの頸部呼吸補助筋の活動性亢進、鎖骨上窩の陥凹、腹筋群の収縮など)
数値だけでなく、呼吸の「様子」そのものが基準に入っているのがポイントです。補助筋を使い始めていないか、鎖骨の上がへこんでいないか。ここは見て取るしかありません。
介入中にリアルタイムで追いかけているのは、呼吸様式と呼吸数の変化です。
私の実感として、血圧の数字が動くより先に呼吸が変わることは珍しくありません。だから呼吸を、循環が追いついていないことを教えてくれる早いサインとして扱っています。
ただし、これは私の観察に基づく順序であって、呼吸変化が血圧変化に先行することを示した研究を確認しているわけではありません。
呼吸そのものの見方は、こちらで詳しく話しています。


視点4:尿量|腎臓に届いているか
腎臓は、心拍出量のうち相当な割合を受け取っている臓器です。だから循環が落ちれば、その影響が比較的早く尿量に現れます。
尿量の目安として広く用いられているのが0.5 mL/kg/時という値で、急性腎障害の診断基準などで乏尿の定義に使われています。ただし、これは腎障害を判定するための基準であって、離床の可否を決めるために作られたものではありません。J-ReCIP 2023の開始基準案・中止基準案にも、尿量の項目は含まれていません1)。
つまりここから先は、基準の外側の話になります。だからこそ、私見として書いておきますね。
ここから先は、私の臨床での見立てです。検証された指標ではありません。
私が見ているのは、絶対値よりも推移の向きのほうです。
尿量が減ってきたときは、まずうっ血傾向になっていないかを考えます。体に水が溜まる方向に傾けば、肺は水浸しになりやすい。肺水腫傾向になれば酸素化が落ちる。酸素化が落ちれば、呼吸様式や呼吸数に変化が出てくる。つまり尿量の減少は、数時間後の呼吸の変化を予告していることがあると考えています。
周術期では、こういう経過をよく見ます。手術翌日は尿量がまだ十分に出ていません。血圧が保てず輸液を負荷するので、入る量が出る量を上回る。いわゆるプラスバランスで、体重も増えていきます。
私が待っているのは、ここが反転する瞬間です。時間あたりの尿量(mL/時)が体重(kg)の数字を余裕を持って超えてきて、アウトバランスに転じる。ここを確認できたら、離床を積極的に進める判断材料の一つにしています。
逆に尿量が多いときも、そのまま安心とは考えていません。尿が出すぎていて血圧が下がってきているなら、脱水に傾いていないかを疑い、クレアチニンと尿素窒素(BUN)の推移を一緒に確認します。これらが上がってきているなら、尿は出ていても腎臓に十分な血液が届いていない可能性があると見ます。
いずれも私が現場で使っている目安であって、この見立てで離床を進めることの妥当性が検証されているわけではありません。
尿量を「腎臓の話」で終わらせないでください。呼吸につながっている話なんです。
視点5:意識|脳に届いているか
離床を進めている最中に、患者さんの反応が鈍くなることがあります。
J-ReCIP 2023の中止基準案では、開始時と比べて意識レベルの低下が出現した場合が中止項目として挙げられています1)。まず止める。ここは基準がはっきり示している部分です。
止めたうえで、私が最初に疑うのは脳血流の低下です。せん妄ではありません。
理由は2つあります。ひとつは、疲労なら言葉に出るからです。「疲れた」「しんどい」と表出されることが多く、意識レベルの低下とは結びつきにくい印象があります。
もうひとつは、早期離床がせん妄の予防・改善につながることが複数の研究をまとめた解析で示されている2)ため、動かしている最中にせん妄が悪化するというのは話の筋が通らないと考えているからです。
血圧が下がって脳への血流が落ちた。そう考えるのが自然だと思っています。そしてこの場合、臥床してその日の離床は終了。ここは引っ張らないようにしています。
ただし、実際の原因は個別に判断が必要です。この順序で疑うことが正しいと検証されているわけではありません。
基準値そのものにも、限界があります
ここまで基準値の話をしてきましたが、その基準値自体が全員に等しく当てはまるわけではありません。
臓器には血流を一定に保つ自動調節能という仕組みがあります。ただしこの調節が働く血圧の範囲は、慢性的な高血圧があると高いほうへずれることが知られています。同じMAPでも、その人にとって十分かどうかは違ってくるということですね。
理屈としては理解しているのですが、その人の「普段の血圧」を判断に組み込めているかというと、正直まだです。
基準の下限をぎりぎり満たしていても、もともと高血圧の方には不足している可能性がある。学会でもそうした配慮が要るという話は耳にします。でも日々の臨床で、そこまで細かく見られてはいません。
ここは私自身の次の課題だと思っています。
18年やっていても、できていないことはあります。
この視点は、ICUの外でこそ要ります
ここまでICUを前提に書いてきましたが、実はこの話がより必要になるのは、集中治療室の外かもしれません。
ICUではモニターが常時ついていて、循環の変化が数字として追える環境があります。一方で一般病棟では、血圧測定は決まった時間に行われることが多く、その間の変化は見えません。数字が手元にない時間のほうが長いわけです。
だからこそ、血圧以外の4つの視点が効いてきます。
一般病棟で「血圧は保ててるんですけど、何かおかしいんですよね」という相談を受けることがあります。
この「何かおかしい」を、私は軽く扱わないようにしています。数字に出る前の変化を、そばにいる人が感じ取っている可能性があると考えているからです。
そういうときに確認しにいくのが、この記事に書いてきたことです。触れば冷たくないか、汗をかいていないか、呼吸の様子が変わっていないか、尿量はどう動いているか。
まとめ|循環は「入口」と「出口」で見る
最初の問いに戻ります。ICUで循環の何を見るのか。
| 視点 | 何を見るか | 意味 |
| 血圧 | MAP(60〜100 mmHg) | 入口の圧 |
| 末梢 | 冷感・湿潤 | 皮膚に届いているか |
| 呼吸 | 呼吸様式・呼吸数 | 循環が追いついているか |
| 尿量 | 推移の向き | 腎臓に届いているか |
| 意識 | 介入前との比較 | 脳に届いているか |
ガイドラインに記載があるのは、血圧・末梢(冷汗)・呼吸・意識の4つです1)。尿量は離床の基準には含まれていません。
そのうえで、私が現場で持っている見方はこうです。
- 湿潤は額・体幹・四肢の3か所で確認している
- 呼吸様式と呼吸数を、最も早いサインとして扱っている
- 尿量は絶対値ではなく推移の向きで読み、アウトバランスへの反転を一つの合図にしている
- 離床中の反応低下は、まず脳血流を疑う
- その人の普段の血圧を組み込めていないことは、自分の課題として認識している
血圧はスタート地点です。ゴールは「届いているかどうか」の確認にあります。
数字は嘘をつきませんが、全部は教えてくれません。残りは、ベッドサイドで拾いにいくしかないんです。
次回は、その血圧を作っている心拍出量そのものを掘り下げます。前負荷・後負荷・収縮性・心拍数という4つの因子の話です。


引用文献
1)日本集中治療医学会集中治療早期リハビリテーション委員会.重症患者リハビリテーション診療ガイドライン2023(J-ReCIP 2023).日集中医誌 2023;30:S905-72.
2)Zhang L, Hu W, Cai Z, et al. Early mobilization of critically ill patients in the intensive care unit: a systematic review and meta-analysis. PLoS One. 2019;14(10):e0223185. doi:10.1371/journal.pone.0223185

