ABCDEFバンドルとは?ICUケアを変える6つの柱と現場での実践ポイント

ABCDEFバンドルは、集中治療室(ICU)で重症患者さんをどうケアしていくかを、チーム全体で共有するための枠組みです。ひとことで言えば「多職種の共通言語」ですね。

医師や看護師だけでなく、リハビリテーションスタッフ、薬剤師、管理栄養士、医療ソーシャルワーカーまで、それぞれの立場から毎日「今日この患者さんに何をするか」を確認していく。そのときの土台になるのがこのバンドルです。

ABCDEFの一文字ずつが、それぞれ大事なケア項目を指しています。これを日々実践していくことで、せん妄の予防、人工呼吸器からの早期離脱、死亡率の低下といった形で患者さんの予後が変わってくることがわかっています。

この記事では、ABCDEFバンドルの中身を一つずつ見ながら、集中治療室で理学療法士として働いてきた立場から「現場では実際どうなのか」も一緒に話していきます。

ラッセル

教科書的な説明だけなら、正直どこにでもあります。この記事では「基準は満たしているのに、なぜ今日はやめるのか」みたいな判断の話も入れていきますね。

この記事を書いた人
  • 臨床18年の現役理学療法士
  • 認定理学療法士(呼吸)、集中治療理学療法士、3学会合同呼吸療法認定士、呼吸ケア指導士
  • 集中治療室、救命救急病棟、一般病棟にて呼吸器疾患、重症疾患患者さんの治療に日々奮闘中
  • 医療の最前線から本当に必要な情報を発信します
目次

ABCDEFバンドルの概要

ABCDEFバンドルは、ICU患者さんのアウトカム改善を目的に、多職種による包括的なケアを標準化したものです。次の6つの要素からできています。

  • A:痛みの評価・予防・管理(Assess, prevent, and manage pain)
  • B:自発覚醒・自発呼吸トライアルの実施(Both SAT and SBT)
  • C:鎮痛・鎮静薬の適切な選択(Choice of analgesia and sedation)
  • D:せん妄の評価・予防・管理(Delirium: assess, prevent, and manage)
  • E:早期離床・運動(Early mobility and exercise)
  • F:家族の関与と支援(Family engagement and empowerment)

この6つ、バラバラにやるものではありません。1万5千人以上を対象にした大規模研究では、バンドルの実施度合いが高いほど、翌日も人工呼吸管理が続く確率、7日以内の院内死亡、せん妄の発生、身体拘束の使用が、いずれも大きく下がることが示されています1)

大事なのは「どれか一つ頑張る」のではなく、全体としてどれだけ回っているかだということですね。

A:Assess, prevent, and manage pain 痛みの評価・予防・管理

集中治療を受けている患者さんは、意識がはっきりしていてもいなくても、何らかの痛みを抱えていることが多いです。

人工呼吸器、チューブ類、処置や検査。ICUという環境そのものが痛みの原因になります。だからこそ「痛みの見逃し」が起きやすい。ABCDEFバンドルが一文字目に痛みを置いているのは、そういう理由です。

痛みを放置すると何が起きるか

  • ストレス反応により呼吸・循環に悪影響が出る
  • 睡眠が障害され、せん妄のリスクが上がる
  • リハビリテーションが進まなくなる
  • 退院後のPTSD(心的外傷後ストレス障害)にもつながりうる

どう評価して、どう管理するか

評価は、患者さんの意識レベルに合わせてスケールを使い分けます2)。自分で訴えられる方にはNRS(Numerical Rating Scale)やVAS(Visual Analogue Scale)、訴えられない方にはBPS(Behavioral Pain Scale)やCPOT(Critical Care Pain Observation Tool)といった行動評価のスケールを使います。

予防としては、処置の前にあらかじめ鎮痛薬を投与しておくといった先手の対応も含まれます。管理では鎮痛薬の選択、持続投与とレスキュー投与の調整、非薬物療法の併用などを組み合わせていきます。

ラッセル

「痛いと言わないから痛くない」は成り立ちません。意識がないから無痛だ、というのも違います。ここは譲れないところです。

もうひとつ大事なのが、職種をまたいで同じスケールで見るということ。看護師とリハビリテーションスタッフと医師がバラバラの物差しで痛みを語っていると、話が噛み合いません。

理学療法士として痛みをどう捉えるか

私の立場から言うと、Aは「E:早期離床」の前提条件です。鎮痛が足りていない状態で離床を進めても、まず成立しません。

重症患者リハビリテーション診療ガイドライン2023(J-ReCIP 2023)3)では、離床開始にあたっての疼痛コントロールの目安が示されています。

  • 自己申告できる場合:NRS ≤ 3 または VAS ≤ 30 mm
  • 自己申告できない場合:BPS ≤ 5 または CPOT ≤ 2
  • 耐えがたい痛みや苦痛の訴えがない

B:Both SAT and SBT 自発覚醒トライアルと自発呼吸トライアル

Bは、人工呼吸器からの離脱を早めるためのステップです。

鎮静が深いまま、人工呼吸器への依存が長引くと、せん妄や筋力低下(ICU-AW)、ICU滞在の長期化につながります。だから意図的に「覚醒させてみる時間」と「自分で呼吸させてみる時間」をつくる、という発想です。

SAT(自発覚醒トライアル)とは

  • 鎮静薬を一時的に中止または減量して、どの程度覚醒できるかを確認する
  • 呼びかけへの反応、混乱の兆候、安全に覚醒できるかを評価する

毎日鎮静を中断するというアプローチは、人工呼吸期間とICU滞在日数を短縮することが古くから示されています4)

SBT(自発呼吸トライアル)とは

  • 人工呼吸器のサポートを最低限にして、自分で呼吸できるかを確認する
  • CPAPやTピースモードで短時間試して、離脱の可能性を見極める

なぜセットで考えるのか

理由はシンプルです。鎮静が深いままだと呼吸状態を正確に評価できませんし、逆に覚醒が不十分なまま抜管すればリスクが上がる。だから両方を組み合わせる必要があります。

実際、SATとSBTを組み合わせたプロトコルを用いた無作為化比較試験では、人工呼吸器を離れていられる日数が有意に増え、1年後の死亡率も低下することが報告されています5)

ラッセル

ここが回り始めると、現場の景色が変わります。後の「E」のところでも触れますが、私の実感としてもかなり大きいです。

実践のポイント

  • 毎朝のカンファレンスで「今日SAT・SBTができるか」を判断する
  • 呼吸状態・循環動態・鎮静深度を総合的にチェックする
  • 医師・看護師・臨床工学技士・リハビリテーションスタッフが連携して安全に進める

C:Choice of analgesia and sedation 鎮痛・鎮静薬の適切な選択

Cのポイントは、痛みと鎮静のバランスをどう取るかです。

ICUでは処置や不快感に対して鎮痛・鎮静を行うのが当たり前ですが、鎮静が深すぎると問題が起きます。人工呼吸期間の延長、せん妄、死亡率の上昇と関連することが、複数の研究をまとめた解析で示されています6)

だからCで求められるのは、必要最小限で、かつ質の高い鎮痛・鎮静を選ぶことです。

深すぎても浅すぎてもダメ

  • 過鎮静:意識消失に近い状態。せん妄やICU-AWのリスクが上がる
  • 鎮静不足:痛みや不安がコントロールされず、ストレス反応や自己抜管の危険
  • 薬剤によって、せん妄リスクや覚醒遅延の起きやすさが違う

適切な鎮静レベル(RASSでの目安)

RASS(Richmond Agitation-Sedation Scale)は、−5(完全に無反応)から+4(著明な興奮)までの11段階で鎮静レベルを評価するスケールです。

推奨されるのは RASS 0(覚醒・落ち着いている)〜 −1(やや眠いが容易に覚醒) の範囲。いわゆる「浅い鎮静」です2)

  • 意思疎通ができる
  • 呼吸状態の評価やリハビリテーションへの参加がしやすい
  • せん妄の予防にもつながる

薬剤選択の考え方

  • 鎮痛薬:フェンタニル、モルヒネなど。腎・肝機能に応じて調整
  • 鎮静薬:デクスメデトミジンやプロポフォールが中心。ベンゾジアゼピン系はせん妄リスクの観点から避けることが推奨されている2)
  • 原則は「Analgesia First」。不穏や不安の原因が痛みにあるなら、まず鎮痛の最適化を優先する

理学療法士として鎮静をどう捉えるか

J-ReCIP 20233)では、離床時の鎮静コントロールの目安が示されています。

  • −2 ≤ RASS ≤ +1
  • 安全管理のためのスタッフ配置が十分な場合は RASS +2 も可

ここで、現場のリアルを正直に話しておきます。

ネット上では「鎮静が深くて離床させてもらえない」という話をよく見かけます。でも私の職場では、そもそも必要がなければ浅い鎮静が基本です。深鎮静になっているときは必ず理由があるので、こちらから「鎮静が深すぎて離床できません」と持ちかける場面は、正直ほとんどありません。

ラッセル

これ、鎮静管理そのものというより「チームでどこまで前提を共有できているか」の話なんだと思っています。

逆のパターンはあります。興奮が強くて鎮静が必要になる場面ですね。このときは離床の実施が難しくなりますが、「今日は難しい」という判断もチームの中で共有されているので、そこで揉めることはありません。

D:Delirium せん妄の評価・予防・管理

Dは、ICUにおけるせん妄への対応です。

せん妄は急性に生じる意識・注意・認知の障害で、ICU患者さんにはかなり高い頻度で発生します。一見すると一時的な混乱に見えるかもしれませんが、放置していい問題ではありません。

せん妄が予後を左右する

人工呼吸管理中の患者さんを対象とした研究では、せん妄の発生が6か月死亡率の上昇や、ICU滞在・入院期間の延長と独立して関連することが示されています7)

さらに、せん妄が続いた期間が長いほど、退院から1年後の認知機能が低下していたという報告もあります8)。ICUを出たあとの生活にまで影響が及ぶ、ということですね。

ラッセル

「一時的に混乱してるだけ」で済ませてはいけない。ここは本当に強調したいところです。

評価:毎日のスクリーニングが基本

せん妄は見た目だけでは判断できないので、客観的なツールを使って評価します2)

  • CAM-ICU(Confusion Assessment Method for the ICU)
  • ICDSC(Intensive Care Delirium Screening Checklist)

いずれも、呼びかけに反応するレベル(RASS −3以上)の患者さんに対して実施します。

理学療法士は「動き」からせん妄に気づける

リハビリテーションの時間は、患者さんに実際に動いてもらう時間です。だから「昨日はできていたことが、今日はちぐはぐ」という変化に気づきやすい立場にあります。

ただ、そこで独断で動くことはしません。私は「何かおかしいな」と思ったら、まず看護師にCAM-ICUの結果を確認します。そのうえで、理学療法士としてもCAM-ICUを評価する。

ICDSCは時間経過での記録より判断するのに対して、CAM-ICUはその時のせん妄の有無を判断するツールです。介入時にせん妄を疑う際には積極的にCAM-ICUでの評価を行うようにしています。

ラッセル

「なんか変」で終わらせず、共通のスケールに乗せる。そうすると、その違和感がチームに伝わる情報になるんです。

予防と管理

予防としてできることは、意外と地味な積み重ねです。

  • 深鎮静を避ける
  • 昼夜のリズム、音や光をコントロールして睡眠環境を整える
  • メガネや補聴器の使用を促し、感覚の遮断を防ぐ
  • 「今はICUにいますよ」「今日はこういう予定です」と繰り返し伝える

管理でも、第一選択は非薬物的なアプローチです。感染、低酸素、薬剤といった原因を除去し、鎮静薬を見直す。薬物治療はあくまで最終手段で、非薬物的ケアが基本になります2)

Dは「B(覚醒・呼吸)」「C(鎮静)」と地続きです。せん妄が落ち着けば、離床もスムーズになります。

E:Early mobility and exercise 早期離床と運動の促進

Eは、ICUにおける早期リハビリテーションを明確に打ち出す項目です。ABCDEFの中で、理学療法士がいちばん前に出る部分でもあります。

重症だからこそベッド上安静が続きがちなのですが、その安静そのものが筋力低下(ICU-AW:ICU-acquired weakness)を招きます。実際、ICU入室後10日で大腿直筋の断面積が17.7%も減少し、しかも1日目から筋蛋白の分解が合成を上回る異化状態に入っていることが報告されています9)。多臓器不全があると、進行はさらに速くなります。

だからEでは、「意識が戻ってから」ではなく、できるだけ早い段階から動くことを支援します。人工呼吸管理中の患者さんに早期から理学療法・作業療法を行った無作為化比較試験では、退院時の機能的自立度が高く、せん妄期間も短縮しました10)

早期離床は「やればいい」ものではありません

ここ、いちばん誤解されやすいところなので先に言っておきます。

6か国49施設・750名を対象にしたTEAM trialでは、早期から積極的に離床を進めた群と通常ケア群を比べて、主要アウトカムである180日生存退院日数に差がありませんでした11)。それどころか、不整脈や血圧変動、SpO2低下といった離床に関連する有害事象は、早期離床群のほうが有意に多かったんです。

ラッセル

「早く動かせばいい」ではないんです。全員に一律で積極的な介入をかけるのは、むしろ不利益になり得る。

一方で、複数の研究をまとめた解析では、早期離床によってICU滞在日数や人工呼吸器装着期間の短縮、せん妄発生率の低下が示されています12)

この2つは矛盾していません。問いが変わってきている、ということです。「早期離床は有効か」ではなく、「質の高い離床をどう実践し、どう管理するか」。ここに現場の腕が問われます。

「今日やるか、やらないか」を現場でどう決めているか

私の勤務先では、平日の午前中にICUに入っている全患者さんを対象に、ベッドサイドを回りながら多職種でその日の方針を確認しています。担当看護師が現状、その日の予定を共有し、集中治療科の医師が病態と治療方針を説明する。そのうえで、リハビリテーション職や薬剤師、管理栄養士などがそれぞれの立場から、その日やること・気になっていることを出していきます。

ここで大事なのが、離床開始基準を満たしていても、必ず離床するとは限らないということです。

J-ReCIP 20233)の基準はクリアしている。でもその日のチームの方針が「今日は積極的な介入より安静を優先しよう」であれば、こちらは踏みとどまります。基準は「やっていい条件」であって、「やるべき理由」ではないんですよね。

ラッセル

基準表だけ見ていると、ここを間違えます。数字は満たしているのに、なぜ止めるのか。理由はチームの中にあるんです。

逆のパターンもあります。その日の介入で離床目標を達成しても、全身状態が落ち着き、灌流も保てていて、基準も満たしている。今日は端座位までの目標で進めましょうという共通認識であったところを、立位まで進められそうだぞ。つまり、もう少し離床を進められそうだぞという時があります。そういうときは、その場で医師に確認して「もう一段進めていいか」を相談します。朝決めた目標を天井にしない、というのも現場の判断です。

ちなみに以前は、人工呼吸器を装着したまま歩行練習まで進めることもありました。集中治療科医師、看護師、臨床工学技士など複数の職種に協力をいただき、挿管チューブやライン類を分担して管理しながら歩く。ただ最近はこれ、かなり稀になっています。理由は単純で、SATとSBTがきちんと回るようになった結果、抜管までが早くなったからです。バンドルが機能すると、人工呼吸器を着けたまま歩く場面自体が減っていくんです。

病期によって、やることは変わります

同じ「早期離床」でも、入室直後と、状態が改善してきた時期では、組み立てがまるで違います。

入室直後、病態が不安定な時期は、低負荷が基本です。ここで負荷をかけすぎると呼吸努力が増えてしまう。肺と横隔膜を守ることを最優先にして、関節可動域の維持やポジショニングを中心に組みます。

状態が安定して病勢が改善してくる時期には、栄養管理と組み合わせて頻度と強度を上げていきます。人工呼吸器から離れたあと、自分の呼吸を維持し続けるには呼吸予備能が要る。そこを取りに行く時期です。ただしこの段階でも、過大な呼吸努力は避け続けます。

ラッセル

理学療法士の専門性って、突き詰めるとここだと思っています。強度と頻度とタイミングを、その日の病態に合わせて決めること。

そしてこの判断を支えるのが、ベッドサイドでの評価です。離床の前後で呼吸がどう変わったか。ここをきちんと評価できるかどうかで、次の一手の精度が変わってきます。聴診もその評価の重要な一つです。適切な聴診器を使用することは大切です。

離床が進まない患者さんにこそ頻度を検討する

いちばん悩ましいのが、急性期から病態が安定せず、離床が進まないままICU滞在が長引く患者さんです。経験のある方なら、思い当たる顔があると思います。

離床が滞れば、当然バンドルの遵守率も下がっていきます。そして見落とされがちなのが、横隔膜も同じように痩せているということです。

深い鎮静と臥床が続いて横隔膜を使わない状態になると、廃用性の萎縮が進みます。人工呼吸管理下では、18〜69時間の不活動で横隔膜の筋線維の断面積が約57%減少していたという報告があります13)。実際に、人工呼吸開始後に横隔膜の菲薄化が確認された患者さんは41%にのぼり、これは人工呼吸期間の延長と関連していました14)

やっかいなのは、逆もまた良くないことです。サポートが足りず過剰な呼吸努力が続くと、今度は横隔膜が働きすぎて厚みが増す。こちらは24%の患者さんで確認され、ICU在室日数の延長と関連していました14)

ラッセル

使わなさすぎても、使わせすぎてもダメ。適正なサポートのもとで「適度に使う」ことが、結局いちばん早い離脱につながると考えています。

だから私は、離床が進まない患者さんほど低負荷・高頻度で関わるべきだと考えています。考え方としてはこの3つです。

  • 1回の介入で成果を求めない。短時間を複数回に分けて、頻度のほうを担保する
  • セラピストが入る時間だけを離床の機会にしない。安全に行える範囲を職種間で共有しておく
  • ケアや処置のスケジュールを見て、負荷が二重にかかる時間帯をつくらない

2つ目が特に大事なんです。「どこまでなら安全か」が曖昧なままだと、関わる側も踏み込めません。逆にそこが具体的に共有されていれば、セラピストがいない時間帯も回復の時間になります。

ラッセル

離床できないからこそ、横隔膜を守る視点が要る。ここは声を大にして言いたいところです。

安全に配慮した実施判断

  • ICUでのリハビリテーションは「やらないか、やりすぎるか」の二択ではない。適切なタイミングと量を決めることがすべて
  • J-ReCIP 20233)の開始基準・中止基準をチームで共有しておく
  • 離床の可否を毎日カンファレンスで確認する文化があるかどうかが、結局いちばん効く

Eは、筋力や身体機能の回復だけの話ではありません。患者さんの自立と、退院後の生活に直結します。そしてDとの相互作用も大きく、離床が進むことでせん妄の予防・改善にもつながります12)

F:Family engagement and empowerment 家族の関与と支援

Fは、患者さんの心理的な安定と、回復後の生活に密接に関わる視点です。

ICUという特殊で不安の多い環境では、家族が果たす役割がとても大きい。積極的に関わってもらうことで、患者さんにもご家族にも良い影響があります2)

なぜ家族の関与が要るのか

  • ICU患者さんは意識障害やせん妄で、自分がどこにいるのか分からなくなる
  • 家族がそばにいることが、安心感と再定向につながる
  • 家族自身もPICS-F(家族に生じる心理的障害)に苦しむことがある
  • 家族の理解が進むことが、退院後の支援力にそのままつながる

具体的な取り組み

  • 面会制限の緩和と柔軟な対応
  • 診療内容・予後・今後の方針を、わかりやすい言葉で共有する
  • ICUダイアリーの導入
  • 話しかける、触れる、写真を見せるといった情緒的な関わりを促す

私の職場でも、カンファレンスで家族背景をチームで共有しています。手浴や洗髪といったケアに参加していただくこと、リハビリテーションの場面を見ていただくこと。そういう選択肢を、その都度チームで検討しています。

Empowerment(力づけ)とは

単に「参加させる」ことではありません。家族が自分の役割に自信を持てるように支えることです。

  • 「そばにいること自体が治療の一部です」と、はっきり伝える
  • 退院後に必要になる介護や支援について、早い段階から情報提供する
  • 安心して判断・協力できるよう、信頼関係を先につくっておく
ラッセル

ご家族って、「何もできない」と感じてしまうことが多いんです。そこに役割があると伝えるだけで、表情が変わります。

Fは、ABCDEFの中でも「文化の変革」が必要とされる部分です。ICUケアの人間性そのものが問われる要素だと感じています。

今は「GH」まで加えて実践しています

ここまでA〜Fを見てきましたが、現在は「G」と「H」を加えたABCDEFGHバンドルという形も提案されています15)。PICS(Post Intensive Care Syndrome:集中治療後症候群)と、その家族版であるPICS-Fの予防まで視野に入れた考え方です。

G:良好な申し送り伝達(Good handoff communication)
申し送り事項にPICSやPICS-Fに関する情報を盛り込むことで、治療の継続性を保つという考え方です。ICUの中で積み上げたものを、次の場所へ渡すための項目ですね。

H:書面での情報提供(Handout materials on PICS and PICS-F)
PICSやPICS-Fについてのパンフレット、そしてICU日記がここに含まれます。ICU日記は、集中治療によって歪んでしまった記憶を正し、心理的な回復を促すツールとして注目されています。

GHが効いてくるのは、ICUを出ていくときです

正直に言うと、GはFの延長にあるので、ICUの中にいる間はA〜Fの枠組みで動いていても大きくは困りません。GHの価値が見えてくるのは、患者さんがICUから出ていく場面なんです。

ICUにいる間、患者さん本人は記憶が飛んでいることが少なくありません。ご家族のほうも、面会のたびに変わる状態を前にして、何が起きていたのかを整理できないまま時間が過ぎていきます。ここが埋まらないまま退室すると、あとから「あの数日間が真っ暗」という状態になる。

そこで使われているのがICUダイアリーです。その日どんなことがあったか、リハビリテーションではどこまでできたかを日々記録として残し、退室のタイミングで患者さんとご家族にお渡しする。Hが言っている「資料」は、まさにこれにあたります。

ラッセル

「立てるようになった日」の記録が残っているだけで、ご家族の受け取り方がまるで違うんです。これは現場にいて実感しています。

もうひとつは、退室後のフォローです。ICUを出るときに「ここは気をつけて見ていきたい」という項目を決めておいて、後日ICUのスタッフが確認しに行く。そういう仕組みがあると、病棟との間で話がつながります。バンドルの中身そのものではありませんが、GHの発想を退室後まで伸ばすと、こういう形になっていきます。

正直に言うと、いちばんの課題はICUの外にあります

ここは書くかどうか迷ったのですが、書きます。

ABCDEFバンドルは、ICUの中では回るようになってきました。各職種が能動的に関わる文化ができていれば、遵守率は自然と上がっていきます。ツールとして意識するようになってからは、それがさらに加速した実感もあります。

問題は、患者さんが一般病棟に移った瞬間に、この認識がほぼ途切れることです。

ラッセル

ICUの中でどれだけ丁寧に積み上げても、出た先で止まってしまう。ここが、いま一番もどかしいところです。

これは特定の施設の話ではなく、多くの施設に共通する課題だと感じています。むしろPICSへの取り組みを積極的に進めている施設ですら、この乖離は残る。ということは、これから取り組もうという段階の施設なら、なおさらでしょう。

理想を言えばこの認識の差はゼロに近いほうがいい。ただ、簡単に埋まるものではないというのが、現場にいての実感です。啓発を続けながら、少しずつ動かしていくしかない。ここは正直、まだ答えが出ていません。

コラム:ナラティブレビューとは?

ナラティブレビューとは、特定のテーマに関する既存の研究を物語のように記述し、背景や文脈を理解するためのレビューのことです。システマティックレビューとは異なり、厳密な方法論に基づいたものではなく、研究者の解釈や視点が含まれることがあります。したがって、全体像を把握するうえでは有用ですが、エビデンスの質としては必ずしも高くない点に注意が必要です。

GHバンドルもナラティブレビューで提示されたものなので、「確立した推奨」ではなく「こういう考え方が提案されている」と受け取るのが適切です。

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特徴ナラティブレビューシステマティックレビュー
方法論厳密な方法論に基づかない厳密な方法論に基づき、再現性がある
記述物語のように記述客観的なデータに基づいて記述
解釈研究者の解釈や視点が含まれる客観的なデータに基づいて分析・評価
目的背景や文脈の理解、新たな視点の提示エビデンスの統合、結論の導出

まとめ|ABCDEFバンドルは「共通言語」であり、回復への道しるべ

ABCDEFバンドルは、ICUでの重症患者ケアを多職種が同じ視点で支えるための枠組みです。一つひとつの項目に、患者さんの命だけでなく、その後の生活やQOLを守るための意味と根拠が詰まっています。

項目内容目的
A痛みの評価・予防・管理ストレス軽減・回復促進
B自発覚醒・自発呼吸トライアル人工呼吸器離脱・せん妄予防
C鎮痛・鎮静薬の適切な選択過鎮静を避け、せん妄を防ぐ
Dせん妄の評価・予防・管理精神的後遺症の予防・早期対応
E早期離床と運動ICU-AW予防・自立支援
F家族の関与と支援安心感の提供・PICS-F予防

このバンドルは単なるチェックリストではありません。「今日、この患者さんに何が必要か」を考えるための土台です。

そして、新しく何かを始めるためのものでもない。すでにやっている日々のケアを見える化して、質をそろえるためのツールなんです。

ラッセル

だからこそ、毎日やることに意味があります。特別なことではなく、当たり前を積み重ねる。それが結果的に患者さんの未来を変えていきます。

引用文献

1)Pun BT, Balas MC, Barnes-Daly MA, et al. Caring for critically ill patients with the ABCDEF bundle: results of the ICU Liberation Collaborative in over 15,000 adults. Crit Care Med. 2019;47(1):3-14. doi:10.1097/CCM.0000000000003482

2)Devlin JW, Skrobik Y, Gélinas C, et al. Clinical practice guidelines for the prevention and management of pain, agitation/sedation, delirium, immobility, and sleep disruption in adult patients in the ICU. Crit Care Med. 2018;46(9):e825-e873. doi:10.1097/CCM.0000000000003299

3)Unoki T, Hayashida K, Kawai Y, et al. Japanese clinical practice guidelines for rehabilitation in critically ill patients 2023 (J-ReCIP 2023). J Intensive Care. 2023;11(1):47. doi:10.1186/s40560-023-00697-w

4)Kress JP, Pohlman AS, O’Connor MF, Hall JB. Daily interruption of sedative infusions in critically ill patients undergoing mechanical ventilation. N Engl J Med. 2000;342(20):1471-1477. doi:10.1056/NEJM200005183422002

5)Girard TD, Kress JP, Fuchs BD, et al. Efficacy and safety of a paired sedation and ventilator weaning protocol for mechanically ventilated patients in intensive care (Awakening and Breathing Controlled trial): a randomised controlled trial. Lancet. 2008;371(9607):126-134. doi:10.1016/S0140-6736(08)60105-1

6)Stephens RJ, Dettmer MR, Roberts BW, et al. Practice patterns and outcomes associated with early sedation depth in mechanically ventilated patients: a systematic review and meta-analysis. Crit Care Med. 2018;46(3):471-479. doi:10.1097/CCM.0000000000002885

7)Ely EW, Shintani A, Truman B, et al. Delirium as a predictor of mortality in mechanically ventilated patients in the intensive care unit. JAMA. 2004;291(14):1753-1762. doi:10.1001/jama.291.14.1753

8)Girard TD, Jackson JC, Pandharipande PP, et al. Delirium as a predictor of long-term cognitive impairment in survivors of critical illness. Crit Care Med. 2010;38(7):1513-1520. doi:10.1097/CCM.0b013e3181e47be1

9)Puthucheary ZA, Rawal J, McPhail M, et al. Acute skeletal muscle wasting in critical illness. JAMA. 2013;310(15):1591-1600. doi:10.1001/jama.2013.278481

10)Schweickert WD, Pohlman MC, Pohlman AS, et al. Early physical and occupational therapy in mechanically ventilated, critically ill patients: a randomised controlled trial. Lancet. 2009;373(9678):1874-1882. doi:10.1016/S0140-6736(09)60658-9

11)TEAM Study Investigators and the ANZICS Clinical Trials Group. Early active mobilization during mechanical ventilation in the ICU. N Engl J Med. 2022;387(19):1747-1758. doi:10.1056/NEJMoa2209083

12)Zhang L, Hu W, Cai Z, et al. Early mobilization of critically ill patients in the intensive care unit: a systematic review and meta-analysis. PLoS One. 2019;14(10):e0223185. doi:10.1371/journal.pone.0223185

13)Levine S, Nguyen T, Taylor N, et al. Rapid disuse atrophy of diaphragm fibers in mechanically ventilated humans. N Engl J Med. 2008;358(13):1327-1335. doi:10.1056/NEJMoa070447

14)Goligher EC, Dres M, Fan E, et al. Mechanical ventilation-induced diaphragm atrophy strongly impacts clinical outcomes. Am J Respir Crit Care Med. 2018;197(2):204-213. doi:10.1164/rccm.201703-0536OC

15)Harvey MA, Davidson JE. Postintensive care syndrome: right care, right now…and later. Crit Care Med. 2016;44(2):381-385. doi:10.1097/CCM.0000000000001531

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