循環編②心拍出量を決める4つの因子|前負荷・後負荷・収縮性・心拍数から灌流を読む

前回、血圧はCO(心拍出量)とSVR(末梢血管抵抗)の掛け算の結果でしかない、という話をしました。

今回は、その掛け算の片方である心拍出量そのものを分解します。

心拍出量は、前負荷・後負荷・収縮性・心拍数という4つの因子で決まります。この枠組みを持っているかどうかで、ベッドサイドの見え方がかなり変わります。

「心拍数が上がっているのに調子が悪そう」「起こした瞬間に血圧が落ちた」。そういう場面は、4因子のどれが崩れているかで説明がつくんです。

ラッセル

この4つを覚えるだけで、「なんとなく危なそう」が「ここが足りていない」に変わります。

この記事の読み方

この記事では、生理学的なメカニズムやガイドラインに記載されている内容と、私自身の臨床経験に基づく解釈を分けて記載しています。後者は「私見」と見出しをつけた枠で囲んでいます。枠内の内容は研究として検証されたものではなく、エビデンスとしての確実性は高くありません。一つの考え方として読んでください。

目次

心拍出量を決める4つの因子

まず全体像です。心拍出量は、1回の拍動で送り出す量と、1分間の拍動回数の掛け算で決まります。

CO(心拍出量)= SV(1回拍出量)× HR(心拍数)

そして1回拍出量(SV)は、さらに3つの要素で決まります。

  • 前負荷:心臓に戻ってくる血液の量。拡張期にどれだけ満たされるか
  • 収縮性:心筋がどれだけ強く縮めるか
  • 後負荷:送り出すときに打ち勝つ必要のある抵抗

これに心拍数を加えた4つ。この4因子が心拍出量を決め、心拍出量が灌流を左右します。

大事なのは、この4つが互いに影響し合っていることです。どれか一つを増やせば心拍出量が増える、という単純な話ではありません。

ここからは、1つずつ見ていきます。それぞれに「臨床でよく出会う場面」を対応させながら進めますね。

因子1:心拍数|上げすぎると、かえって出なくなる

4因子の中で、モニターを見れば一目でわかるのが心拍数です。だからこそ誤解も生まれやすい。

式のうえでは、心拍数が上がれば心拍出量も増えるはずです。でも実際には、ある水準を超えると逆転します。

拡張期が削られていく

心臓が血液を送り出すには、まず受け取る時間が必要です。心室が満たされて、はじめて意味のある拍出ができます。

心拍数が上がると、1周期のうち短くなるのは主に拡張期です。つまり充満に使える時間が削られる。ある程度までは心拍数の増加で心拍出量も増えますが、充満が不十分になる領域に入ると、1回拍出量の低下が心拍数の増加を上回り、心拍出量はむしろ減少します。

ラッセル

空のバケツを速く振っても、水は運べません。そういうイメージです。

冠動脈の血流も拡張期に流れています

もう一つ押さえておきたい事実があります。

心筋を養う冠動脈、特に左冠動脈系の血流は、その大半が拡張期に流れます。収縮期には心筋自体が血管を圧迫するため、流れにくくなるからです。

ということは、頻脈で拡張期が短くなれば、心臓自身への血流も減るということになります。

私見|経験からの解釈です

ここからは私の解釈です。

頻脈で心筋への酸素供給が減れば、収縮性が落ちる可能性があります。収縮性が落ちればさらに拍出量が減り、それを補おうとしてまた心拍数が上がる。この悪循環が回り始めるのではないかと考えています。

離床という負荷をかける立場としては、この循環に足を踏み入れさせないことを意識しています。ただし、これは病態生理から推測している考え方であって、離床時の頻脈がこうした経過をたどることを示した研究を私が確認できているわけではありません。

ガイドラインが示している数字

重症患者リハビリテーション診療ガイドライン2023(J-ReCIP 2023)1)では、離床と運動療法の基準案として心拍数が挙げられています。

  • 開始基準案:40 bpm ≤ HR ≤ 130 bpm
  • 中止基準案:HR < 40 bpm または HR > 130 bpm

ここで大事なのは、ガイドライン自身がこれを「案」として提示しているという点です。本文には、科学的根拠に基づき統一された中止基準は得られていないこと、各施設の体制や患者の疾患に応じて修正して使用することが望まれる、と明記されています1)

さらに備考欄には、こう書かれています。

  • 一過性の場合を除く
  • 中止基準に該当しない場合でも、著しい心拍数の低下や上昇がある場合は中止し、医師に相談する
ラッセル

ここ、読み飛ばしてはいけないところです。ガイドラインのほうから「数字だけで決めないでください」と言われているんですから。

私見|個人的な判断の置き方です

私は基準の数字を、「そのあたりから拍出が破綻しやすくなる目安」として捉えています。

基準を超えていても拍出が維持できている患者さんはいると思います。ただ、それをベッドサイドで確実に見分けるのは難しい。灌流が保てなくなるリスクのほうが高いと考えれば、中止に倒すほうが妥当だと判断しています。

「まだいけるかも」と「危ないかも」が並んだとき、私は後者を取ります。これは安全側に寄せるという方針の話です。

もう一つ。中止するかどうかとは別に、なぜ頻脈になっているのかを考えることには意味があります。炎症によるものか、循環血液量の不足によるものか。原因が違えば、翌日以降の見通しも変わってくるからです。

ラッセル

頻脈を「今日の中止理由」で終わらせず、明日の材料にしたいんですよね。

因子2:前負荷|戻ってこなければ、送り出せない

前負荷とは、心臓に戻ってくる血液の量のことです。4因子の中で、ベッドサイドから比較的読み取りやすいのがここです。

心筋には、適度に引き伸ばされることでより強く収縮できるという性質があります。Frank-Starlingの法則ですね。逆に言えば、伸ばされる材料が足りなければ力は出ません。

私見|私が組み立てているアセスメントです

「前負荷が足りていないな」と感じるとき、私は次のような情報を重ねて判断しています。

  • 安静時から、いつもより血圧が低め
  • 経口摂取が進んでいない
  • そのうえ、補液も入っていない
  • 採血でクレアチニンと尿素窒素(BUN)が上がってきている

どれか一つで判断するのではなく、これらが揃ってくると「血管内が乾いている」という絵が見えてくる、という感覚です。

これは検証された評価指標の組み合わせではなく、私が日々の臨床で使っている見立てです。同じ所見でも別の解釈は成り立ちますし、より確実な循環血液量の評価方法は他にあります。

前負荷不足は、起こした瞬間に表に出ます

臥位から座位・立位へ姿勢を変えると、重力によって血液は下半身に移動します。健常であれば圧受容器反射がすぐ働き、血管を収縮させ心拍数を上げて血圧を保ちます。

ところが循環血液量が不足していると、そもそも戻る血液が足りません。そこへ重力がかかれば、脳への血流が保てず、意識レベルの低下や失神につながることがあります。

臥床が長く続いた場合も同じ方向に働きます。循環血液量そのものの減少と、自律神経による調節反応の低下が組み合わさるためです。

ラッセル

「座っただけなのに」と思われるかもしれませんが、戻る血液が足りない状態で重力をかけたら、こうなります。

私見|経験からの解釈です

私の経験では、輸液が入るとこうした症状は改善する印象があります。前負荷が満たされれば、同じ動作でも耐えられるようになる。

そう考えると、患者さんの能力が変わったのではなく、条件が変わっただけという見方ができます。だから「昨日できなかったから今日も無理」ではなく、条件が整ったかどうかを見にいく。私はそういう組み立て方をしています。

前負荷を支えているのは、末梢です

ここで、あまり語られない話をします。

「静脈血が心臓に戻る」という言い方をしますが、実態としては末梢から集められていると捉えたほうが正確です。下肢から心臓まで、血液は重力に逆らって上がっていく必要があるからです。

これを支えているのが、次の3つの仕組みです。

  • 下肢の筋ポンプ:筋収縮が静脈を圧迫し、血液を押し上げる
  • 静脈弁:逆流を防ぎ、一方向の流れをつくる
  • 呼吸による胸腔内圧の変動:吸気時の陰圧が静脈血を引き込む

つまり前負荷は、心臓の話であると同時に末梢の話でもあるということです。臥床が続いて筋ポンプが弱れば、集める力そのものが落ちていきます。

ラッセル

ICUで筋力が落ちるという話は、実は循環の問題でもあるんです。

私見|個人的な進め方です

ここが実践に効いてくるところだと思っています。

長く臥床していた患者さんを、いきなり立たせないようにしています。先に足を動かしてもらい、筋ポンプを働かせてから起こす。静脈還流の仕組みを立ち上げておいてから重力をかける、という考え方です。

実際の進め方としては、まず座位をとって反応を見る。良ければ立位へ進む。反応が悪くなったら座位に戻し、場合によっては臥床して休憩する。この段階を踏みます。

そして経験上、休憩したあとの2回目は、初回より血圧低下が起きにくい印象があります。一度動かしたことで調節反応が立ち上がるのではないかと考えていますが、これは私が症例数を数えて確認したものではなく、あくまで個人的な印象です。同じことが起こらない患者さんもいると思います。

ただ、「1回目で落ちたから今日は終わり」と決めてしまう前に、休憩してもう一度試すという選択肢は持っておいてよいのではないかと思っています。

因子3:収縮性|前負荷を増やしても、出ていかないことがある

収縮性は、心筋そのものの力です。ここが落ちていると、4因子の関係が変わってきます。

収縮性が低下している心臓では、Frank-Starlingの関係が健常な心臓と同じようには働きません。前負荷を増やしても拍出量が思うように増えず、送り出せなかった分がうっ滞します。左心系に負担がかかれば肺うっ血へ、という経過をたどります。

前回話した、尿量の減少がうっ血傾向を経て呼吸の変化として現れるという話が、ここでつながってきます。

私見|私が特に慎重になる場面です

心不全、特に左室駆出率が低下している症例(HFrEF)では、私は特に慎重に進めます。

「血圧が低いのは前負荷不足かもしれない」という発想を、そのまま当てはめると危ないと感じているからです。4つの因子のうちどれが崩れているのかを見ないまま同じ対応をすると、心不全そのものを悪化させるリスクがあると考えています。

因子4:後負荷|圧はあるのに、流れていない

最後が後負荷です。心臓が血液を送り出すときに打ち勝つ必要のある抵抗で、実質的にはSVR(末梢血管抵抗)を指します。

後負荷が高すぎると、収縮力があっても血液は出ていきません。逆に敗血症のように血管が開きすぎれば、圧が保てなくなります。

そしてここが、前回の話に戻ってくるところです。

血圧はCO×SVRの掛け算でした。心拍出量が落ちていても、SVRが高ければ数字は保たれます。つまり後負荷が高い状態というのは、「血圧は正常なのに末梢に届いていない」の典型パターンなんです。

ラッセル

前回「その血圧は何によって作られているのか」と書いたのは、この話です。後負荷で作られた血圧は、流れを保証してくれません。

なお、J-ReCIP 20231)の開始基準案では、昇圧薬について「開始前時点で直近に新規投与開始または増量がない」ことが挙げられています。薬の種類や量ではなく、直近で動いていないかどうかを見る形になっているわけですね。循環動態が安定しているかを担保するための項目です。

まとめ|4因子で、現場の場面が説明できる

まず、確立している内容の整理です。

因子崩れると何が起きるか臨床で出会う場面
心拍数上がりすぎると拡張期が短縮し、充満不足で心拍出量が低下。冠血流も減る頻脈
前負荷戻る血液が不足し、1回拍出量が低下起立性低血圧、座位での意識低下
収縮性前負荷を増やしても拍出できず、うっ滞する心不全、肺うっ血
後負荷高すぎると流れず、低すぎると圧が保てない血圧は正常なのに末梢冷感

そして、静脈還流は筋ポンプ・静脈弁・呼吸によって支えられていること。臥床が続くと循環血液量と自律神経調節が低下し、起立性低血圧が起きやすくなること。この2つも押さえておきたいところです。

私見|私が現場で持っている判断の軸
  • 心拍数の基準値は、安全側に倒すための目安として使っている
  • 前負荷不足は、血圧・摂取状況・補液・腎機能の推移を重ねて見立てている
  • 足を動かしてから起こす順番を意識している
  • 1回落ちても、休憩してもう一度試す選択肢を持っている
  • HFrEFでは、前負荷の考え方をそのまま当てはめない

私たちセラピストや看護師は、心臓を直接操作できません。でも4因子のうち前負荷は、末梢から支えられます。筋ポンプを使った介入、静脈還流を意識したポジショニング、呼吸に合わせた動作の誘導。どれも地味ですが、循環を回すための手段です。

ラッセル

直接ポンプを触れないからこそ、末梢からできることがある。そう考えると、リハビリテーションの意味が変わって見えてきませんか。

次回は、ここまで話してきた「届ける」という話を、酸素の量として数字で捉えます。DO₂・VO₂・O₂ERという3つの指標の話です。

引用文献

1)日本集中治療医学会集中治療早期リハビリテーション委員会.重症患者リハビリテーション診療ガイドライン2023(J-ReCIP 2023).日集中医誌 2023;30:S905-72.

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