聴診器を使っているのに、心音や呼吸音が聞こえにくい。そんなとき、すぐに聴診器の性能や故障を疑う必要はありません。イヤーピースの装着、チェストピースの切り替え、患者さんの体格など、確認すべき点があります。
私は急性期病院で理学療法士として勤務し、Master Classic IIとMaster Cardiologyを長期間使用してきました。この記事では、基本的な確認方法と、実際の臨床で聴診しにくかった場面を分けて解説します。
聴診器の音が聞こえないときの確認ポイント
- イヤーピースが正しい方向を向いているか
- イヤーピースが耳に密着しているか
- 両面型チェストピースの使用面が正しく開いているか
- 膜面が皮膚に十分接触しているか
- チューブや接続部に破損・緩みがないか
1.イヤーピースの向きを確認する
耳管の先端は、顔の前方(鼻の方向)を向くように装着します。逆向きでは耳へのフィットが悪くなり、音が聞こえにくくなることがあります。
2.イヤーピースの密閉性を確認する
イヤーピースが耳に合っていないと、周囲の音が入り込み、聴診音を捉えにくくなります。サイズや耳管の張力を、製品の説明書に沿って確認しましょう。
私が長年使用しているMaster Cardiologyでは、耳への密着感と遮音性の高さを特に評価しています。ただし、これは私自身の使用感であり、誰にとっても同じとは限りません。
両面型は、使いたい側が開いているかも確認してみてください。意外と見落としやすいポイントです。
3.チェストピースの使用面を確認する
Classic IIIやCardiology IVのような両面型では、チェストピースを回して聴診する面を切り替えます。使用したい面が開いていないと、音が十分に伝わりません。Master Cardiologyのような片面型では、この切り替え操作は不要です。
4.膜面が皮膚に密着しているか確認する
チェストピースが皮膚に十分接触していないと、音を聞き取りにくくなります。衣服の擦れる音なども聴診を妨げるため、当てる位置や角度を調整します。患者さんの皮膚状態によっては、強い圧迫を避ける配慮も必要です。
高度なるいそうの患者さんでは、膜面が密着しないことがある
私が臨床で特に難しいと感じるのは、高度なるいそう(著しいやせ)によって肋骨や肋間の凹凸が目立つ患者さんです。胸壁の形状によってダイアフラム(膜面)の接触が不十分になり、呼吸音が聞き取りにくいことがあります。
私の場合、まずは膜面が密着しやすい場所を探し、当てる位置を調整します。それでも十分な聴診ができない場合は、無理に聴診を続けるのではなく、その場面では聴診所見の評価上の優先度を下げます。
呼吸数、呼吸パターン、胸郭の動き、SpO₂、その他の身体所見や検査結果を組み合わせ、患者さんの状態を総合的に評価します。音を十分に聴取できなかったことと、実際に呼吸音が減弱していることは区別が必要です。
これは聴診そのものが不要という意味ではありません。十分に音を捉えられない状況では、聴診所見だけに頼らないという臨床上の判断です。
肋骨の凹凸が強い患者さんでは、まず膜面が密着する場所を探します。それでも難しいときは、聴診だけにこだわらず、ほかの評価を重視しています。
5.チューブや部品に異常がないか確認する
チューブの亀裂、接続部の緩み、イヤーピースの外れなどがないか確認しましょう。外観に異常がなくても不具合が疑われる場合は、メーカーや販売店に確認してください。
なお、チューブに曲がり癖があるだけで、必ず音が聞こえなくなるわけではありません。私が所有するLightweight II S.E.にも曲がり癖やねじれ癖がありますが、それによって著しく聴診できなくなった経験はありません。個体で確認した事実であり、製品全体の品質を断定するものではありません。
故障や交換部品については、リットマン聴診器の寿命・破損と交換部品の記事も参考にしてください。
私が試したLightweight II S.E.は、価格が比較的抑えられていても、臨床で必要な音を聴き取れました。まずは装着や密着を見直すのがおすすめです。
安い聴診器だから聞こえないのか
価格によって構造や遮音性などに違いはありますが、価格だけで聴診の可否は決まりません。私はLightweight II S.E.も臨床で使用したことがあり、必要な聴診性能は備えていると感じています。まず装着方法と本体の状態を確認することが先決です。
機種ごとの違いが気になる方は、リットマン主要モデルの比較記事、長期使用の感想はMaster Cardiologyの実機レビューをご覧ください。
まとめ:聞こえない原因を切り分ける
音が聞こえにくいときは、イヤーピースの装着、使用面の切り替え、膜面の密着、部品の状態を順に確認します。それでも聴診できない場合は、患者さんの体格や聴診部位などの条件も考えましょう。
臨床では、聴診できなかったことを異常所見と即断せず、他の評価情報と統合することが重要です。聴診器は患者さんの状態を把握するための道具の一つであり、聴診すること自体が目的ではありません。

